小説

『羨望の色素性母斑』岩花一丼(『こぶとりじいさん』)

 でも何とかなるはずだ。普段は憎い岡田が協力してくれると言っていたのだから。

「きっしょ」

 岡田の声だ。この一声が波紋のように広がり、音を発していいのだと、何も己で判断できない有象無象がざわめき出す。

 ただ似たような特徴を持つ石島のようになりたいだけだったが、彼とは生まれ持ったものが違っていたのだろう。無理やり自分ができもしないことを、がむしゃらにやってみたとて、周りは冷たくあしらうのだ。その行動に至った心持ちなど、どうでもいいのだ。変われると思った自分が情けない。
 先生がそんなこと言うもんじゃない。と言っていた気がするが、どうせ上辺だけに決まっている。こんな場所、こちらから願い下げだ。

 目覚ましではなく母の声とカーテンを開ける音で目が覚める。夜明け前に寝たばかりなので苛立ちを覚える。適当に今日も具合が悪いと言う。母は憐れんでくれたのか諦めたのかは分からないが、わかった、とだけ言って出ていく。三日連続で休み、部屋に篭っているのでおよそ察しがついたのであろうか。
 カーテンを閉めようとすると、窓から通学中の小学生が見えた。悩みなど全くなく、ただ目の前の事象を純粋に楽しんでいるようで羨ましかったが、こっちはこんなに苦しんでいるのにどいつもこいつも舐めやがってという怒りも込み上げてきた。苛立ちを覚えたのでとりあえず寝た。

1 2 3 4 5 6 7 8