小説

『シャボンの姉』辻川圭(『シャボン玉』)

 私は銃を持つ手に力を入れた。そして思い切り、引き金を引いた。
 ぱん、と渇いた音が響く。ドラム缶に穴が空く。ぼう、と秘密基地が燃える。
 「花。ありがとう」
 千草はポケットから銃を取り出し、空に向けた。
 「二人の門出を祝って」
 そう言い、千草は空に向かって銃を放った。クラッカーのような音と共に、千草の身体は薄くなっていった。
 「ねえ、千草。私は人生の主役になれるかな」
 「大丈夫。私が言うんだから、間違いないよ」
 千草はもう泣いていなかった。私は涙が止まらなかった。
 風が吹く。千草の身体が、まるで陽炎のように揺れる。風よ、吹くなと思う。
 「ねえ、花。素敵な花になってね」
 そう告げて、千草は消えた。まるでシャボン玉が壊れるみたいに、ぱんと消えた。かたん、と地面に銃が落ちた。

 夏休みが終わり、二学期を迎えた。
 「私、大学に行こうと思います」
 職員室で、禿げた先生に向かって言った。
 「そうか。大学で何を学びたいんだ?」
 「人生の主役になる方法です」
 「お、おう。そうか。まあ、進路を決めてくれて良かったよ」
 禿げた先生は酷く困惑しているようだった。けれど、私はそれで良かった。
 下校時間になり、私は帰路に就いた。その足取りは軽かった。途中で十字路に差し掛かった。私はそこを左に曲がった。家に帰って、勉強をしようと思った。
 家に着いた私は参考書を開いた。そしてシャーペンを持った。

 何処かで、千草が微笑んだような気がした。

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