小説

『シャボンの姉』辻川圭(『シャボン玉』)

 数日後、私は秘密基地に向かった。千草に謝ろうと思った。謝って、また冒険に行こうと思った。しかし、物事はそう上手く行かなかった。私が秘密基地に着くと、千草は銃を持っ待っていた。
 「あれ?銃はもう撤去されたんじゃ」
 おどおどとした声で私が言うと、千草は「くすねてたの」と言った。
 「ねえ、花」
 「何?」
 「今日でお別れにしようか」
 その声が耳に届くまで、酷く時間がかかった。それに理解するまでその倍かかった。
 「え、どうして?」困惑した私を、千草が見つめた。
 「だって、私が居たら花は前に進めないでしょ?だから私は成仏する」
 そう話す千草の声は優しかった。私は何度も、首を振った。
 「嫌だよ。私はもっと千草といたい。別にほら、将来の夢も何もないし、だからさ、ずっとずっと一緒にいようよ」
 気づけば、私は泣いていた。泣いて、千草の腕を掴んでいた。
 「それが問題なの。ここに居たら、花は名前の通り素敵な花になれなくなっちゃう。私はね、それが一番嫌。だって、大切な姉妹には素敵な人生を歩んで欲しいから」
 「でも」
 千草は優しく微笑みかけて言った。
 「ねえ、花。秘密基地で遊ぶの楽しかった?」
 千草の唐突な質問に、私はただ頷いた。
 「私もね、秘密基地で花と遊ぶのが大好きだった。正直に言えば、ずっとここで遊んでいたかった。でも、私は死んじゃった。私ね、花の事が心配だったの。一人ぼっちにしちゃって大丈夫かなって。だから呪縛霊としてここに残った。でも、最近思うんだ。結局、私は花をここに縛り付けてるだけだって」

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