小説

『ほら吹きの詩』辻川圭(『君死に給うこと勿れ』)

 読み終えた僕は、駆け出していた。彼女の本名であろう「秋」という名前を叫びながら廃墟ビルの中を捜した。しかし、彼女の姿はなかった。

 日が暮れ始めると、僕は家に帰った。そして自然と、パソコンを開いていた。言われた通り、彼女のことを書こうと思った。
 ぽつぽつと、僕は彼女のことを思い出していた。僕の自殺を止めた彼女。僕を太宰と呼んだ彼女。ビールを飲む彼女。僕の文章を褒めてくれた彼女。そして、天国に昇る彼女。
 彼女のことを思いながら、タイトルを綴った。

 『ほら吹きの詩』

 僕はまた、文章を書き始めた。

 「恥の多い生涯を送ってきました」
 廃墟ビルの屋上で、僕はそう呟いた。

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