小説

『ほら吹きの詩』辻川圭(『君死に給うこと勿れ』)

 晶子がいなくなった屋上で、僕は詩を開いた。しかしそれは詩ではなく、晶子からの手紙だった。

 ~背景 太宰へ~

  私のことを正直に話します。私は病魔に侵されていて、もうあまり長くはありません。
 そのことを黙っていてごめんなさい。本を沢山読んでいたのも、病室でやることがなかったからです。
  それに、私は一つ嘘を付きました。それは、太宰が自殺をしようとしていたあの日、実は私も自殺をしようとしていました。病気で死ぬくらいなら自分で死のうと思ったのです。けれど、太宰の恥塗れの告白を聞いていたら、可笑しくてそんなことはどうでもよくなりました。おかげで、天寿を全うできそうです。
  先ほども述べましたが、私はもう長くありません。なので、もう太宰に会うこともないと思います。そんな中で、一つお角違いなお願いがあります。それは私を文章にしてほしいということです。もし書いたら、天国で私を見つけてその文章を読ませてください。き っと才能のある太宰なら、文章の中で私を生かしてくれると思います。
  最後に一つだけ、太宰に詩を送ります。

  君死に給うこと勿れ

                       ~秋~

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