お客さんの夕食を提供した後に厨房へ向かうと、既に料理の残り物が綺麗にお皿に取り分けられていた。両親と姉と私の分の夕食だ。けれど、そこには一人分しかなかった。既に皆食べたのだろうか。
それを持って控え室として使っている部屋に行く。いつも姉と共に食事をとり、時々そこに母が加わるが、今回は違った。
父と母と姉、全員が自身の夕食と共に私のことを待っていた。姉の隣の席に着くと、母がいただきますと言った。それに続いて私もいただきますと言って皆と一緒に食べ始める。
暫くの間、学校で何があったとか、後であの部屋の掃除をするつもりだとか、いつものように他愛のない会話をしながら食べていた。
「それで、今何かに悩んでるの?」
姉が切り出した。
「んー。悩んでいるというか、進路希望について考え事してるだけ。」
「死にかけるくらい悩んでるのか?」と父が言った途端、母が父の腕を軽く叩いた。
「やめなさいよ。冗談じゃないのよ?ビックリしたでしょ。本当に良かった無事で。」
「うん。ありがとう。ごめんね心配かけて。」
「気づかなくてごめんね。美波。」
静まり返った風呂場に水滴が落ちたみたいに、小さな声で姉は謝った。その言葉を聞いて私の方こそ申し訳ない気持ちになった。胸の内側を誰かの手がぎゅっと掴んで捻っているように感じられる。
「泣くほど怖かった?」母が、驚いている父をよそに、心配そうに言ってくれる。
「ううん。違うの、皆を心配させたから。私のせいなの。今日、進路希望の話があって大学に行って欲しいのは分かってるんだけど、私やっぱり海女になりたくて。」
「馬鹿だね。誰も強制なんてしてないよ。」母が手を伸ばすので、私は母に手を握ってもらう。
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