私は亀の元へ戻り、人間を見た事、美しい人を抱きしめたい事を伝えた。
「やはりお前も人間に惹かれるのだろう。お前の母と同じように。明日またここに一度来なさい。太陽と月と地球が重なると門が開き、見えないがそこに存在する世界が交わる瞬間がある。そして海に帰りたい人間にはお前達が見える瞬間がある。ただ、目を合わせてはいけないよ」
翌る日に、浜に行ってみたものの、私は人間の様に歩く事は叶わない。私は島から見えるあの神様の祠なるものに近づいてみたかったのだけど、もう段々と潮が引いて海に戻れなくなる。岩礁から島に沈む夕陽を見つめながら、私は海から人間を思い続け、陸に上がり、身を焦がして海に戻れなくなった人魚の歌を歌った。もういかないと。
翌夜からは、毎晩神様の祠に灯る燈を、門の際まで見に行った。姿は見えないけど、きっとあの人が灯しているに違いない。