考えるよりも先に、ぶら子はそう返していた。
「命をかけて戦に向かう息子に、お粗末かとは思いましたが、口に出せない思いを全て込めて、数個の団子を渡しました」
まるで何かに取り憑かれたかのように、ぶら子は自然と体が動いた。
先ほどまでの動揺が嘘かのように、心も身体も静かに動いた。
兵隊さんの足元に近づき、落ちていた棒で文字を書いた。
「私どもの国では、きびで出来た団子に漢字をあて、帰る日の団子、帰日団子と書きます。お国のために命を捧げる息子に、無事に帰ってくる日を待っているなどとは口が裂けても言えません。だからこの団子に、全ての思いを託して渡しました」
ぶら子は、なぜこんなことを兵隊さんに話しているのか、自分でもわからなかった。
兵隊さんにわからぬように込めた「帰日」の意味を自ら告白してしまうなど、今ここで兵隊さんに「非国民」と刺し殺されてもおかしくない所業だった。
いや、自分でもわからなかった、といえば半分嘘になる。
ぶら子は兵隊さんに、自分の息子の姿を重ねていた。「お国のために立派に死んできます」と敬礼をした息子の目は、兵隊さんと同じ、今にも泣き出しそうな、母親に甘えるような、恐怖に滲んだ色をしていた。恐れるなと尻を叩いてやることも、立派に死んでこいと抱きしめてやることもできなかった自分を、その目に責められているようで、ぶら子の身体は自然に動いてしまっていた。