小説

『迷い子達へ』蒼山ゆう子(『マヨイガ』(東北地方、関東地方))

 そうだった、と幸は思う。
 責任だとか義務だとか、そんなんじゃない。
 ただ、自分がそうしたかったから。
「だから、有希ちゃんのこと追いかけたの」
 襖がゆっくりと開いていく。
 その奥に見えたのは、光が差し込む玄関だった。
「行こう、仲山さん」
「うん。ありがとうね、有希ちゃん」
「こっちこそ、ありがとう」
 靴をはいて玄関から庭へと出る。
 門をくぐり外に出て、それから二人は顔を見合わせた。
「あれ? なんか今……」
「うん。頭撫でられた感じがしたね」
 二人同時に振り返る。
 そこに屋敷はもうなかった。

 
 気が付くと、前のチェックポイントに二人は立っていた。
 落ちている帽子を見つけ、有希は駆け出してそれを拾い上げる。ぱっぱっと砂を払ってから、幸のほうを見て口を開く。
「そういえば、仲山さんってマヨイガのお話どの程度知ってたの?」
「えっと、それがあんまりよく知らないんだよね。なんとなく、くらいだよ」
「そっか。じゃあさ、もう一つのバリエーション知ってるかな。一度マヨイガにたどり着いた男の人が、何も持ち帰らないで、その後村人達を案内した、っていう話なんだけど」
「えーっと、それは知らないな」
「その村人達はマヨイガのことを知っていてね。『なにか持ち帰って長者になるぞ』って意気込んで、その男の人に案内させたんだけど、結局マヨイガは見つからなかったんだ。だからね」
 そう言って、有希は帽子を頭にかぶる。

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