有希の手をとって、幸も立ち上がる。手をつないだまま襖の前に立ち、今度は有希が襖に手をかける。
一気に開き、二人の眼前に広がったのは。
幸が「ちょっと待ってよ!」と声をあげる。
襖の先には、相変わらず和室が続いていた。
「今のは玄関につながる流れじゃないの? 空気読んでよ、マヨイガさん」
憤慨する幸に、「もしかして」と有希は言う。
「仲山さん、正直なこと言ってないんじゃない?」
「ええ? もうこれでもかってくらい醜態さらけだしたと思うんだけど」
「醜態じゃなくてさ。たとえばあのときとか、本当はどう思ってたの?」
「あのときって?」
「わたしが帽子忘れた、って言ったとき」
幸はそのときのことを思い出す。
班のメンバーの一人、副班長である玲。他愛のない話をする分には楽しい子であるが、ちょっと周りが見えないところがある。
今日も、有希以外の女子しか共有できないような話を積極的にして、ただでさえ肩身の狭い思いをしているであろう有希をさらに一人へと追い込んでいた。
ただ、有希本人の前で注意もしづらかったし、言い方に気を付けないと玲の機嫌が悪くなるのも目に見えていたので、ひとまず有希と二人で話す機会を、幸はずっとうかがっていたのだ。
「わたし、有希ちゃんと二人で話したかったの。玲とか他の子達が、自分達にしか分からないことばっかり話すから、それで嫌な思いしてるんじゃないかと思って。この林間学校の間、さみしい思いさせるんじゃないかって心配になって」
「それは、班長として責任を果たしたいから、だったの?」
有希の言葉に、幸はふっ、と頬をゆるめる。
「ううん。そうじゃないよ。わたしが嫌だったから、だよ。有希ちゃんにも楽しんでもらいたかったから」