小説

『寿限無の名付け』名鳩玲(『寿限無』)

「『の』なら曲線のフォルムも可愛いし平仮名もカタカナも一画だから良いかもな。でも、言い難い時もあるんじゃないか?」
「言い難い時?」
「例えば、小学生になって友達に自分のノートを取ってもらいたい時に『”の”のノート取って』とか言おうとすると『の』が三つも並ぶから言い難いだろ?」
「確かにね。文字数が少ないと同じ文言が繰り返されるリスクは高くなるよね。じゃあどうすれば良い? 本当に短い名前が良いのかな? 貴方、恐らく日本一長い名前なんだから長くて良かったエピソードとかは無いの? 長い名前を擁護してよ」
「まあ良くも悪くも印象には残るよね。でもこの歳になると下の名前で呼ばれることなんてないだろ?」
「そうかなぁ?」
「普通に生活していて下の名前をフルネームで呼ばれることなんてあるか? 病院でも先生って呼ばれることがほとんどだし、あったとしても先生の前に名字が付くくらい。俺みたいなオッサンが下の名前で呼ばれることなんてまあ無いよ」
「確かに私も下の名前で呼ばれることなんてほとんど無いかも。大人になったら社会的には名字にさん付けの方が圧倒的に多いし、逆に親しい友人からは渾名で呼ばれるから下の名前をフルで呼ばれることなんてほぼ無いわ」
「そうだろ。そもそもお前だって俺のことフルネームで呼んだことなんて無いじゃないか」
「まあ、言われてみれば・・・・・・」
「付き合ってる頃は『寿限ちゃん』だったし、揶揄って『ポンポコピー』とか『ポンポコナー』とか呼んでみたり・・・・・・、思い返してみたら酷いもんだ」
「ごめんなさい、貴方がそんなに傷付いてるとは思ってなくて。でも貴方のご両親はどうしてそんなに長い名前を付けたのかしら?」
「そこは落語と同じ。偉いお和尚さんから教えて貰った縁起の良い言葉を全て繋げたらこうなっちゃったんだ」
「変な名前だけどご両親の思いが詰まってるんだね。じゃあ逆にそのご両親の思いは叶ったの? つまり貴方は今幸せなの?」

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