小説

『夢の潮合い』あやこあにぃ(『天女伝説』(静岡県三保の松原))

「先生、青いマフラーどうしたんです? さっきまで巻いてたのに」
「ん? あぁ」
 大和は首元に手をやって、そっと微笑んだ。
「あげた」
「ええ!? この短時間で? お気に入りだとかお守りだとか言ってたのに、誰に?」
「やる気がなかったかつての自分」
「は? 自分?」
 素っ頓狂な声を上げる助手から視線を外し、空を見上げる。クロマツの向こうのぬけるような青空は、ありがたいことにあの日と同じだ。
「よくわかったよ。やっぱり、未来を作るのは自分自身だってこと」
「え?」
「さて、次は岬のほうへ行くか」
 足元の野外作業グッズを抱え上げ、松林の中の神社をちらりと一瞥する。そして背筋をしゃんと正すと、十年前よりも少しだけ緑が増えた松林を、大和は力強く歩き始めた。

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