小説

『夢の潮合い』あやこあにぃ(『天女伝説』(静岡県三保の松原))

「……なんで俺の名前」
「なんでも知ってるよ、……天女だからな。それにだいたい、天女は見た人間の理想の姿で現れるのさ」
「理想の姿……?」
 大和はパチパチと瞬きをして、天女の頭の先から爪先まで目をやった。そして、マフラー……もとい、羽衣を差し出して、
「じゃあコレは? どう見てもただのマフラーに見えるんだけど」
「疑うなぁ」
 勘弁してくれといった風情で羽衣を受け取り、両手を広げる天女。
「最近は環境が変わって天界の天然素材も品薄なんだよ。いつも地上に来たら羽衣をかけるのに使ってた松も、松枯れで枯れちゃったしなあ」
「マツガレ?」
 大和が首をかしげると、天女はここぞとばかりに衝撃的な表情になった。
「知らないのか? 松が枯れる病気」
「さあ」
「松の葉って緑色だろ。その中で茶色くなってる松、見かけたことない?」
「あるようなないような」
「そういう感じね……」
 わしわしと自らの髪の毛をかき回しぼやいてから、天女は大和を真っ直ぐ見て言った。
「つまらない人生が早く終わりますように」
「え?」
「今、神社でお祈りしてたろう」
「なんでそれを」
「だから、なんでもお見通しなんだって」
 神様でもあるまいし、そんな力があるとは思えないが、そういえばさっき祈りを捧げた小さな神社の御神体は、天女だった気もする。

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