小説

『夢の潮合い』あやこあにぃ(『天女伝説』(静岡県三保の松原))

「自分には夢がない。希望もない。焦るけど、どうしたらいいかわからない。だからもう、終わりにしたい——」
 口を引き結ぶ大和を見て、
「その夢、叶えてやるよ」
 天女が、すっと目を細めて笑う。
「だからまず、飯を食わせてくれ」
「は?」
 大和がぽかんと口を開けたと同時に、ぐごごごご、とものすごい音が聞こえた。天女にも腹の虫がいるのか。ひゅーっと冷たい風が吹き抜けた。

 松林の中のベンチに並んで座る。お昼用に持って来たおにぎりを渡してやると、天女はたちまち上機嫌になった。
「美味いなー! これ、お袋さんの手作り?」
 しかし大和は短く答える。
「俺の」
「あ、そう」
 パタン、と感情の蓋を閉めるように真顔になる天女。
「なんだよなんか文句あんのか。今朝握った貴重な食糧なんだぞ」
「いや、べつに」
 松一本分隔てた向こうは海だ。ざざん、と波の音が聞こえる。
 大和は、自分と天女の間に置いてあった羽衣を、改めて手に取った。色こそシャレているが、別に光っているわけでもないし、空気のように宙に浮くわけでもない……。
「ところで大和」
「うん?」
「今日、学校はどうしたんだ」
 突然話題が切り替わって、大和はぴくりと肩を震わせた。火曜日の午前十時。普段なら二限目が始まろうかという頃合いだ。
「天女には関係ないだろ」
「ふーん。まあ、その通りだけど」

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