「マコトか。そこにいるのか?」
女の人の声がして我に返った。懐中電灯の灯りが二つ近づいて来た。
マコト君のお母さんと私の母だった。ここでも怒られると思った。マコト君はすぐに私の前に立った。私をかばうつもりだろうと分かった。ところが、マコト君のお母さんも私の母も怒らなかった。
「マコト。カズオ君。ありがとうね。ありがとうね。栄、寂しかったよね。ありがとうね。だけど、大丈夫だよ。お寺にはねえ、和尚さんがいるから、栄も怖くないよ」
マコト君のお母さんはそう言って、私とマコト君をぎゅっと抱きしめた。私の母は私の頭をなでた。それから、マコト君のお母さんは私の母に頭を下げた。
もう、五〇年以上前の話だ。マコト君も私も大人になって街を離れた。何年か前に近くを通ったら、街はすっかり様子が変わって道路も舗装されいたけど、お寺はひっそりと昔のままだった。
マコト君はどんな大人になってどこにいるんだろう。ちょっと会ってみたいなと思う。