心臓が激しく脈を打っているのが分かった。常日頃、先輩のことを考えて私は生活をしてきた。先輩は私の中心であり、憧れの存在であった。先輩の演技はこれまでに何度も見てきたから、先輩の演技の凄さは私が一番理解しているはずに違いなかった。
「マキちゃんにそんなに喜んでもらえるなんて嬉しいわ。この脚本が完成したら、最初にマキちゃんに読んでもらいたいな」
先輩はいつものように明るく笑っていたが、その瞳の奥にはどこか底の見えない深くて暗い悲しみのようなものがある気がした。
「もちろんです。先輩が元気になったら、一緒に舞台に立てるのを楽しみにしています」
「うん、早く元気になるね。それまでは指導とかしてあげられないけど頑張ってね」
私は力強く頷いた。先輩に少しでも不安を抱かせないように、私にできることは精一杯やると決めた。
病室の窓の外を見ると雪が降り始めていた。
病院からの帰り道、私は先輩のことを考えていた。先輩の体調は大丈夫なのだろうか。もし先輩が舞台に出られなかったら誰が先輩の代わりをするというのだろうか。
目の前には地平線が広がり、あたり一面に降り積もった雪が太陽の光を反射して、憎らしいほどにキラキラと輝いていた。
「あ、マキ、やっほー」
背後から誰かが私を呼ぶ声がした。振り返ると、そこには大学の友人のアヤがいた。