「随分気楽そうにやってるじゃないか」
アクセスすると、見慣れた上司の円山が嫌味を言った。
「第一声がそれですか」
「昼間から飲ませるために飛ばしたわけじゃないからな」
飛ばしたことは認めるのか。
滝沢は写り込んでいた瓶を見せる。
「これは酒蔵さんからのいただき物です」
「酒蔵? そば? 芋?」
「いえ、日本酒だそうで」
「九州で日本酒? 珍しいな」
「小さな蔵が今作ろうとしてるみたいですよ」
言いながら、滝沢は喉の奥に小骨が引っかかるような気がした。
焼酎と清酒は免許が違う。わざわざ日本酒を作る冒険なんかしなくてもいいはずだ。
「それ、イケるんじゃないか?」
「何がですか」
「ほら、古民家とか流行ってるだろ。いっそ酒抜きでもいい」
「酷いですね」
「デベロッパーは開発してナンボだ。いつまで引きずってるんだ」
随分なことを言う。滝沢も初めから無気力だったわけではない。
自分の仕事で他人の人生を左右するかもしれない。その恐怖は鉛の鎖となって、その場から滝沢を繋いだ。