「だから! うちで作るって」
すぐそばで髪をひとつに乱雑にまとめた、若い女がもうひとりの職員に食って掛かっていた。女はジーンズにTシャツ、そして黒木酒造と書かれた派手な赤の法被を羽織っていた。
「そうは言ってもねえ。事業計画書だと……」
手詰まり感漂わせた職員はちらりと田宮に目線を投げた。
やれやれと田宮は滝沢にすみませんと謝りながら女の対応をする。
「楓ちゃん。頑張ってるのはわかるけどさあ。九州といえば焼酎だから。日本酒作ってもねえ」
「飲んでから言え!」
楓と呼ばれた女は威勢よく、足元の酒箱からラベルのないガラス瓶を取り出し、カウンターに置いた。
思わず避けた滝沢を楓の目が捉えた。
「ほら、アンタも飲んでみなさいよ」
「……車なんで」
「瓶ごとやるわよ」
「楓ちゃん、アルハラになっちゃうから」
楓はなんとか宥めようとする田宮には目もくれない。まっすぐに射るような目で滝沢を見た。
「アンタ、飲めないの?」
「……いえ」
他に返答できないだろう。そんな圧の中、滝沢は思わず受け取った。
*
古い借家に戻ると、滝沢はテーブルの上に瓶を置いた。
ノートパソコンを立ち上げると、ミーティングのアドレスが届いていた。