一文銭だらけの財布をじゃらじゃらさせる弥兵衛を、店主は微笑ましいものを見るようにして笑った。
「娘さん、よっぽど可愛いんだね」
「おうよ。目に入れたってちっとも痛くない。四、五、六……」
「歳はいくつなんだい」
「七つだよ。八、九、十……、……十五、十六! それ急げ!」
すっかり謎解きを投げ出して、弥兵衛はお琴の待つ饅頭屋へと走り出した。その背中を「気を付けてなぁ」とのんびり店主が見送っている。
そのうち弥兵衛も、はてあの文句は結局なんだったのか、と思い出すことはあるだろう。しかし、同じ手法で自身が勘定を一文誤っていたとは、きっと一生、気づかないのである。