小説

『手鞠歌』洗い熊Q(『キジも鳴かずば』(長野県長野県))

 女性は亜佐美との付き合いが短い。自然と周囲から持て囃される亜佐美が内心、気に食わなかったようだ。
 自暴自棄もあっての逆恨み。それでも付きまとっていたのは羨ましさ合間ってなのだろう。
 流石というか、一応警察には通報したものの亜佐美は彼女を訴えないと事を納めてしまう。
 らしいといえば、らしいが。
 寛大さも見せて女性の思い違いも収まればそれで良いと思う。
 その後、亜佐美は普段通りに生活を送っている。死の影など一切ない。

 では亜佐美の前であの子は何で鞠唄を歌ったのだろうか?

 後にあの子の母親に逢えて伺う事ができた。
 自身もそうだったが、小さい頃は色々と不思議が力があって無意識に周囲を怯えさせた事があると。鞠唄もその一種では。大人へと成るに連れ消えてしまうだろうとも言っていた。

 それではアレは霊感的なものだろうか?

 確証が全くない。
 証拠も推察の欠片もない。
 予知だとしても亜佐美は生きているのだし。論文にしようにも何の取っ掛かりがなく仕上げる自信もなくなっていた。
 まいったな。そう思いつつ取り敢えず、鞠唄の歌詞でもデーター上に残しておこうと打ち込んでいた。
「えっと……いあっといっすおるおく……あれ?」
 パソコンの画面上には“iatuisuoruoku”とローマ字表記になっている。日本語変換になっていないのか。
 不具合かな……そう思いながらローマ字をまじまじと見る。

1 2 3 4 5 6 7 8 9