小説

『手鞠歌』洗い熊Q(『キジも鳴かずば』(長野県長野県))

「やだやだ、ちょっと知り合いの子なの? やだ、ホントにお人形さんみたい~。みんなきてみて触って~」
 と悲鳴にも似た歓喜を上げて亜佐美は周囲に呼び掛けていた。するとぞろぞろと亜佐美の取り巻きが集まって来る。
 取り巻きと言っても亜佐美の同性の友人達。その友人も、亜佐美も、取り巻きだなんて思ってもいない。自然と集まる。
 亜佐美は容姿もそうだが開放的な性格は人を惹きつける。だから傍から見ると彼女が仕切っている様に感じるが、実はそんな事はない。僕は分かっている。
「ドコから来たの? いくちゅなの? おねぇちゃんとあちょぶ~?」
 赤ちゃん言葉になってるぞ。その子はそんな年齢ではないぞ。やれやれ仕様がない。話の腰を折られた。

 亜佐美がよく言われる陰口。あざとい。
 でも彼女は本当にそのままなのだ。演技ではない、素の自分を全開に出してしまうんだ。純粋無垢の自然物。滅多にいないものだから信じる人も少ない。
 小学生からの付き合いで僕は知っている。本当に裏表のない子なんだと。しかし純粋し過ぎて、勘違いから逆恨み買いやすいのは確かだ。

「本当に何処の子なの? 親戚なの?」と亜佐美が女の子の前で座りながら、満面の笑顔で僕に訊いていた。
「いや近所の子らしいんだ。詳しくは僕も……」
 そう困りながら僕が言い掛けた時。
 女の子はカッと目を見開いたかと思うとバッと後退りし持っていた鞠を突き始める。
 そして歌い始めるのだ。

1 2 3 4 5 6 7 8 9