ヤマさんのキッパリとした物言いに、タケルとシューヘイは顔を見合わせた。
「どうして?」
「どうしてボクたちと指したくないの?」
ヤマさんは答える代わりに、立ったままのタケルにシューヘイの隣に座るように手で示した。素直に腰掛けるタケル。
「キミたちはいつも勝つことばかり考えているね」
老職員の言葉に、シューヘイが「だってそういうゲームじゃん」と反論した。
「でもね、将棋はね、文化でもあるんだよ?」
少年二人が口を揃えて「ブンカ?」と訊き返す。
「お茶に茶道があるように、将棋には棋道があるんだ。つまりね、人間としての素晴らしさだよ」
「キドウ? う~ん、ボクたちよく分からないや」
「キミたちはいつも、駒を並べ終えると、ジャンケンをして先手と後手を決めて、挨拶もせずに対局を始めてしまうね?」
「だって、別に、ボクたち、同じ小学校だし」
「そうそう。クラスも一緒だし、今さら挨拶なんて――」
少年の二人の言い分をヤマさんは一刀両断した。
「そこが間違っているんだよ。棋道――つまり、将棋の世界というのは、将棋の強さだけではなく、挨拶とか、マナーとか、礼儀とか、人間としての品格――素晴らしさも大事なんだ」
タケルとシューヘイは分かるような分からないようなという風に首をちょっと傾げたり、互いをチラチラと横目に見たりした。
「私が言いたいのはね、将棋というのは、相手がいないと成立しないゲームだということだよ。キミたちは特にそうだ。相手がいるから、将棋が指せる。そうだろう?」
これには少年二人も納得したとみえ、ウンウンと大いに頷いてみせた。
「そりゃあ将棋だから勝ち負けはある。だけどね、勝ったほうは、今までのキミたちみたいに、大袈裟に喜んじゃダメ。だって、勝ったほうも、負けた人の悔しさを知っているから。そうだろう? 負けた人が悔しい思いをしているから、あえて勝ったほうは喜ばない。むしろ相手の良かった手を褒めてあげる。つまり、相手を思いやるっていうことだ」