しかしピンチの時こそハッタリが重要。これまで剣道の経験から学んだことだ。俺は落ち着いて聞こえるよう鷹揚に答えた。
「はい。喜んで」
奥間で居住まいを正し、俺は深呼吸をした。
「では」
ゆっくり合掌する。
「ナイス トゥ ミー チュー トゥー
アー ユー ハングリー ナーウ
シー マスト ビー スチューピーッド」
「良いお声じゃ」
「珍しいお経だこと」
「アイ ハブ ノー マニー
バット アイ リーリー ワントゥ イート
フライド チキーン アンド
アイスクリーム アンド ジンジャーーエーーール」
チーンと俺は半ばやけくそにおりんを鳴らした。
俺はもう一度姿勢を正し、手をついて礼をした。
「以上です。短いですが。嵐は明日には過ぎるでしょう」
当たり前だ。台風は大概一日で通過する。
「本当にありがとうございます」
おばさんはほっとした顔で礼を言った。
この様子を半眼で見ていた男が声をかけてきた。
「お前見かけない顔だな」
俺は驚いた。そいつは明らかに外国人の顔をしていたたからだ。ぴんと糊のかかった質素な着物を着ている。周りにいた人たちよりも上等な着物のようだった。