小説

『旧い友人』平大典(『文福茶釜』)

 同窓会は予定通り、市内の居酒屋で行われた。参加者は十五名。
 多くもないし少なくもないだろう。
 お座敷の部屋で最初は正座で挨拶をしていたものの、十分もしないうちに姿勢も崩れていった。
 互いに思い出話に花を咲かせ、ほろ酔いとなったころに、片桐という坊主頭の男が隣にやってきた。
「おう、中川。ひさびさだねえ」
「片桐くんも」
 二人とも生ビールのグラスだったので、軽く乾杯をした。片桐はそのまま一気に喉へビールを押し込んでから、店員を呼んで、おかわりを注文した。
 片桐は根っから明るい男だった。当時からクラスの中心人物だったし、担任にも気に入られていた。
 それは二十年が過ぎても変わっていないようだった。今は地元の商社で営業をやっているという片桐は、大げさな手ぶりで小学校時代の思い出を語った。
「中川とこういう関係になるとは、思ってなかったな」
 少し紅潮している片桐は坊主頭を撫でた。
「なんでだい、片桐くん」
 片桐を、なぜか「くん」付で呼んでしまう。これが、昔からの人気者に対する引け目なのか、それとも親しみから呼んでいるものなのかは、自分でも定かではなかった。
 ただ、片桐から中川君と呼ばれたら、どうだろう。少し距離を感じて、いい思いはしないかもしれない。
「だって、中川さ、小学校の低学年のころ、俺らと遊ばなかったじゃん」
「うん。まあ、そうかも」
 実際は避けられていた、と思うが。俺も明るい性格ではなかった。今とそう変わりはしないが。
「正直、なんか怖い奴って印象だったべ」
「どういうこと?」
「一回、放課後にお前の後をつけたんだよ。まっすぐ家には帰っていなかったっぽかったんでねェ」
「なんだよ、気味悪い」
 片桐は微笑む。「子どもにとっちゃ、謎ってのは生きる上でのスパイスさ。ま、どっちでもいいけどよ、正直さ、お前の方が怖かったぜ。あのガッコの裏にある、林道、あったじゃん。あっちに一人で歩いていくのな、お前」

1 2 3 4 5 6