小説

『神来月』蒼薫(『鶴の恩返し』)

 「僕と密着すると、お兄さん、しんじゃいますよ!」
 「どうせじじいになって歩けなくなるなら、10年20年くれてやる!50歳までお前と一緒にこうしていられるなら、俺はお前といる人生を選びたい」

 
 抱きしめていたカンナの体が少し縮んでいく。羽毛や翼が消えていく。カンナの体が人間の素肌に戻っていく。笑ってはいけないが全裸だ。

 「悪魔は人間とは暮らせませんよ」
 「今のカンナのどこが悪魔なんだ」
 「み、見ないでください!」
 「例え翼が生えた悪魔でも、一緒に暮らせば良いじゃないか。犬や猫と一緒に暮らすのと変わらないだろ」
 「僕は猫や犬ですか?」
 「犬だ。カンナはどっちかと言うと──」
 「すいませんお兄さん。カンナは嘘の名前です」
 「本当はなんていうんだ?」
 「ありません。カレンダーを見て素敵な響きだと思って神(かん)無(な)を選びました」
 「じゃあカンナで良いじゃないか」
 「お兄さんは名前あるんですよね?」
 「あ、ああ」
 「教えてください」
 「神楽。カグラだよ」
 「じゃあ、神楽さん。ご飯にしましょう」
 「そうだな。でも、これからは一緒に作ろうな」
 「はい!」
 「じゃあ、まずはお湯を沸そう」
 「お、お湯ですか?」

 俺は長生きしないといけない。カンナと長くいるためにも。そして、カンナに長く生きてもらうためにも。だから、カップ麺を食べるのは今日で最後にしよう。

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