小説

『神来月』蒼薫(『鶴の恩返し』)

 カンナは自分で巻いてあった黒い布を外した。血は止まっていた。傷もふさがりかけている。それは再生というものだった。

 「カンナ、お前、何者なんだ」
 「人の寿命を吸い取る悪魔です」
 「あ、あくま? 寿命を吸い取る?」

 
 俺の腕の中から起き上がった彼は、深呼吸をした。息を吐き終えると、彼の体が変わっていく。白い肌に黒い羽毛が生えていく。カンナの顔のまま、歯が伸びて牙と化す。背中には黒い翼が現れた。その姿は確かに人ではない。悪魔。吸血鬼のようだった。でも、顔はカンナのまんまだ。声だって、手のひらだって、細い足だってカンナだ。背丈だって俺より少し高いくらいで変わらない。

 「お兄さん。どうして僕が食事をしなくても大丈夫か、分かりましたか?」
 「・・・うん」
 「どうしてお兄さんが体調を崩したのか、分かりましたか?」
 「ああ。わかったよ」
 「お兄さん、僕と──」
 「もう、一緒にいられないのか?」
 「はい。僕はお兄さんの寿命を吸ってしまいますから」
 「ならどうして身を削ってまで俺を助けたんだよ! 死ぬまで吸えば良いじゃないか!」
 「す、吸えませんよ! お兄さんに元気でいてほしいから!」
 「そんなあくまがいるかよ……」

 あきれてしまった。必死に叫んだ彼を思い出して、つい笑ってしまった。カンナも笑った。たった数日間のどこかにあった楽しい時間、それを思い出して俺はカンナを抱きしめた。

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