小説

『神来月』蒼薫(『鶴の恩返し』)

 2日後カンナの看病のおかげで俺は回復した。やはり手料理は体に良いようだ。俺のリクエストの影響もあり、煮物までカンナは作れるようになった。今日は焼き魚定食を作ってくれている。煮物や小鉢もついて、豪華な仕上がりになるようだ。どんな食材で、どんな調理をしているのか見てみたいが、相変わらず黒い布しか見えない。俺に見えるのはカンナの白い足──〝ばたん〟と、何かが落ちた。カンナが倒れた。視界にはカンナの上半身が飛び込んできた。

 「カンナ!!」

 声と一緒に俺はベッドから飛び出した。だってカンナが包丁を持ったまま、腕から血を流していたから。なんで、なんでそんなことを!!

 「カンナ! 大丈夫か! カンナ!」

 
 真上にあった黒い布を外して、カンナの手首に巻いた。布が更に濃く染まっていくが、血は流れない。カンナの体は俺の中で震えていた。

 「見ちゃダメだって、言ったじゃないですか」
 「だ、だって緊急事態だろ! というか、なんでこんなこと!」
 「台所、見てください」

 そう促した顔はニヤッとしていた。それが涙を堪えるためだと、目の端を見て分かる。どうして泣いていたのか、俺は台所を見て察した。そこには赤い水滴が浮かぶ鍋と、お皿、小鉢、魚の切り身が置いてあった。それぞれに血液がかかっている。

 
 「カンナ、これ、なんだ」
 「見たまんまです。僕の血です」
 「だ、だから、な、なんでそんなこと、してるんだ? 普通に作れば──」
 「人間じゃないんです。僕人間じゃないんです」
 「な、なに言ってんだ。血だって赤いじゃないか」

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