僕は考え込んでしまった。どう受け止めたらいいのだろう。遠回しに別れを告げられているのだろうか。これはもしかすると、すーちゃん流のやさしさで、自分をセミということにして僕の方から離れていくことを期待しているのかもしれない。でも、あの時のセミだなんて。遠回し過ぎやしないか。僕は黙ったまま立ち止まる。
「ウソ! ウソだよ!」
少しだけ前を歩いていたすーちゃんはくるりと振り返っておどけたポーズをとった。違うということはまだ脈はあるということか。それにしても何だ、セミって。どうして、また。理解があまりにも追いつかなくて苛立ちすら覚えた。
「もう、何が本当かわからない。どうして……」
すーちゃんはごめんごめんと慌てて謝った。フワフワの髪の毛の間からイヤリングが現れ、一緒に頭を下げているかのように揺れる。
「見てたの。たーさんがセミを助けてやるとこ」
「え?」
「最初のデートの時、お土産屋さんの入口で助けてるの、見てたの」
「見てたんだ」
「なんてやさしい人なんだろうって思った」
「そんな、大袈裟だよ」
「いつも助けてるんでしょ?」
「まぁ」
「やさしいね」
夢みるような表情ですーちゃんは言った。
嬉しかったが、やさしいという褒め言葉は何度も掛けられてきた。やさしくても、誰の恋人にもなれなかったのだ。だからやっぱり男として見れるかどうかを聞かないと。心が急く。
「ありがとう。でも……」
すーちゃんは先ほどと同じように手で僕を制した。
「私はね、たーさんが好き。たーさんっていう人が好きなの。将来的にはパートナーとして、これからも私と一緒にいてほしいな」
すーちゃんは一息に言ったあと、照れ隠しで「ぎゅうっ!」と言いながら僕に抱きついた。すーちゃんがかわいくておかしくて、僕は嬉しくて誇らしくて、やさしく、でもしっかりとすーちゃんを抱きしめた。