小説

『虫と男と、』宮沢早紀(『蜘蛛の恩返し』(青森県))

「もしかしたら、本当にたーさんが助けた虫が結んでくれだご縁かも。私の名前にも虫が入ってるわけだし」
 駅までの道を歩きながらすーちゃんが言う。
「入ってた?」
「苗字に」
「在原でしょ? 在原業平、ちはやぶるーの」
「そのアリワラじゃないよ。蟻んこのアリに原っぱの原」
「そうだったんだ!」
「蟻は? 助けたことある?」
「あったかな」
 すーちゃんが言うように彼女との縁は今まで助けてやった虫たちの恩返しかもしれないが、何がきっかけであれ、とにかく僕の隣にいるすーちゃんを大切にしよう、一緒にたくさん笑おう、とつないだ手に力を込めた。
 すっかり日が沈んだ空を見上げると、街灯がそっと僕らを照らしていた。下から見上げた街灯は◎のような形をしていて、僕はその形と明るさを目に焼きつけるようにじっと見つめた。

1 2 3 4 5 6