さて、これからどうしようか。
僕が起居しているこのアパートは、既に王野の知るところとなっている。僕は早急に荷物をまとめ家を出た。
電車で三駅。乗換をしてまた二駅。向かったのは高校時代からの悪友、広瀬の家である。
「なるほどな。状況は理解した」
広瀬は頷くと、眼鏡をクイと押し上げた。普段うっとうしく感じるその仕草も、今だけは頼もしく見える。
「で、どれくらいいるつもりだ?」
「分からん。とりあえず今日は泊まらせてくれ」
「お安い御用だ」
さすがは広瀬。昔から僕の悪行を裏で支えてきた仲間なだけある。
僕は安心して一息つくと、ソファーに身体を沈めた。
「ちょっとゴミ捨ててくる」
広瀬はゴミ箱をガサガサやって、スマホを見ながら玄関へ歩いて行く。そしてドアを開けた途端、五、六人の男たちが素早く部屋に押し入ってきた。
その中の一人が僕を見つけるや否や、こう言い放った。
「津島、妹の結婚式はどうした」
しまった。
聞かずとも分かる。広瀬は僕を売ったのだ。
「すまない」
広瀬が小さく呟くのが聞こえた。