そう考え振り返った途端、教室のドアが開きサークルの面々がなだれ込んできた。
「逃がさないぞ津島」
「原付の鍵穴を接着剤で埋められた借りは返すぜ」
「私の下着盗んだでしょ!」
彼らが口々に叫ぶ中には身に覚えの無いものもあったが、十中八九は覚えがあったので言及しない事にした。
「観念しろ津島、事務室に行くぞ。その後はサークルの皆に謝罪するんだ」
「ま、待ってください!」
僕は出来るだけ悲壮感の漂う声を出して膝をついた。
「今日は妹の結婚式があるんです。たった一人の妹の晴れ姿を、どうしてもこの目で見たいんです」
「なに? それは、そうだな……」
王野は口ごもった。
バカで助かった、と思ったのも束の間。
「行かせてやりたいところだが、ダメだ」
彼は冷酷にもそう付け加えた。
「逃がした小鳥が帰ってくるわけが無い。どうせ、ほとぼりが冷めるまで大学に顔を出さなければ大丈夫とでも思っているんだろう」
そこまでお見通しであったか。ならばこちらも切り札を使うしかない。
「では、友人の芹沢を、代わりにここへ置いていきます。五限が終わるまでに僕が戻らなければ、彼を煮るなり焼くなり好きにしてください」
十分後、現代アートのような寝癖を披露しながら芹沢は現れた。
「俺を身代わりに使うなんて、後でどうなっても知らんぜ」
「すまん。こうするしか無かったんだ」
「まあ良いさ。俺は信じてるぜ」
「また生きて会えたら、ラーメンでも奢るよ」
僕は芹沢と固い握手をして、悠々と大学を去った。