「これも立派なメディアでしょう?大勢の人の目に触れて、ネットニュースになったりもする。ソーシャルネットワークを使えば世界中に発信できる。その内容がどれだけ偏っていても、どれだけ間違っていても、広まったものは取り消せない」
カチカチ山で本当に悪かったのが誰か。カチカチ山の内容は偏っていないのか。僕も、僕の周りにも、そんなことを考えてこなかった。実話だったとか、ほんの一部分を切り取られて湾曲されているなんて、想像さえもしなかった。
昔からあったものだから。そう言い伝えられているから。両親や先生にそう教わったから。僕たちは何も疑わずに受け身になっているだけだったから。
「なんで私がこの場所を選んだか、わかる?」
「……誰かに言うつもりがないから?」
「おお、大正解!なぁんだ、緋山くんって案外鋭いんだねぇ」
「誉め言葉として受け取っておくよ」
「ふふ、うん。そうして。本当に褒めているから」
目を細めて笑う顔が物語っている。同じ夢を見るとか、それが前世の記憶なんだとか、そんなことを離したところで僕らにしか通じない。朔は間違いなくお調子者の部類に入るけれど、誰かを馬鹿にすることがないから話しただけだ。両親だってきっと信じないだろうし、僕がおかしくなったと心配させてしまう可能性の方が大きい。
「私はね、先生になって、許すことを教えたいんだ」
「許すこと?」
「そう。許すことの前には必ず悲しみや怒りが渦巻くじゃない?自分にとって信じがたいほど悪い出来事が起こって初めて、許すって選択肢が生まれると思うんだよ」
目を閉じて深く息を吸い込んでから、ゆっくりと言葉を続けた。