小説

『僕らはみんな』笹木結城(カチカチ山)』

「私たちの前世はさ、後悔しているはずなんだよ。もちろん一番悪いのは老夫婦だって私は思っているけれど、それでも兄の行動は決して許されることじゃない。許されないことをした結果が、かちかち山の結末なんだよ。」
「……僕だって許されないことをしているよ」
「緋山くんじゃなくて緋山くんの前世ね。まあ、時代背景から見て前世ってよりも先祖って感じなんだろうけど……」
「ああ、確かに。言われてみれば」
「でしょう?私たちがあの夢を見るのは、許されないことをしないためだと思っているの。許されないことをしないためには、自分が誰かや何かを許さないことには始まらないんだよ。何も許せない人が、誰かに許されることってきっとないから」

僕が見てきた彼は、彼の家族を殺めた人を許せなかった。許せないがために許されないことをして、僕の手で同じように死んで行ってしまった。僕だって一緒だ。夢の最後はいつも決まっていた。村に戻った僕は、ただの人殺しとして恐れられてしまった。あんなにむごいことをするなんて、そんな風に陰口をたたかれていた。ウサギは、英雄でもなんでもなかった。

「許すこと以外しちゃいけないわけじゃないよ。許す前に怒鳴っても、泣きわめいてもいいの。どんなに厳しい言葉を投げてしまっても、勢い余って殴ってしまっても、私は良いと思っているんだ。最終的に、いつかどこかで許せるならね」

何も無責任なことを言っているわけじゃない。すぐに許せずに崩れてしまった関係は修復できる余地があるけれど、許せずに殺めてしまったら二度と戻らない。僕たちの手で直せないものを、僕たちが壊していい理由なんてない。

「だからまずは私が許すよ」
「何を?」
「やだなぁ、緋山くんのことをだよ」
「……僕じゃなくて先祖だよ」
「お?言うねえ」

ケラケラと笑った枡山さんは豪快な一発を食らわせてから満足げにほほ笑んだ。ジンジンしてくる肩を抑える僕の顔はどうなっているのだろう。カフェテリアでうなだれる朔のことを考えているせいでしかめっ面かもしれない。確実に面倒くさい朔も、その元凶の枡山さんも、許すことにしようか。

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