小説

『タニシの義姉』日下雪(『タニシ長者』(岩手県))

 突風のように走ってきた妹は私を突き飛ばし、ソファテーブルの上の無数のタニシの上へガバと覆いかぶさった。キィちゃんはその剣幕に驚き、まっすぐケージへ帰っておとなしくなった。
 妹は私を上目遣いでにらむなり、目に涙をためてまくし立てた。
「こんなことするなんて、ありえない、信じらんない。いくら自分が彼氏いない歴イコール年齢だからって、嫉妬するにも程があるよ。
 もしタニシくんがキィちゃんに食べられてたら、どうするつもりだったの!?」
「私はただ、真美のためを思って……。」
「ひどい、ひどい、ひどい!」
妹はテーブルに突っ伏したまま、オイオイと声を上げて泣き出した。涙がテーブルの上にボタボタと音を立てて落ちた。その時である。
「そんなに泣かないで下さい。」
タニシくんの感じの良い声が、私たち二人の頭上から凛と響いた。見上げると、りゅうとした青年がテーブルに仁王立ちになって、天井に頭が付きそうになっている。
「タニシくん!?」
妹が上ずった大声を上げた。
「真美さん、あなたのまごころが水神様に通じて、僕はこうして人間の姿になることができました。本当にあなたのおかげです。ありがとう。
 今まで言えなかったことを言います。僕はあなたと、結婚したい。」
そう言うと青年は、そっと妹の手を取ると、まるで王子様のように彼女をローテーブルの上へ優しくエスコートした。
「……タニシくん……。」
青年と妹はひしと抱き合い、それから私の方をちらっと軽蔑のまなざしで見やると、そのまま手に手を取り合って、部屋から出ていった。

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