小説

『ウラシマ』五条紀夫(『浦島太郎』)

 失踪者が見つかっただけならば喜ばしいことだ。ただ、ウラシマには大きな問題があった。ウラシマが現れると、ウラシマもろとも、周囲の人々が一瞬にして消えてしまうのだ。一月に福岡と岩手と愛知、二月に京都と岡山、今年だけでもすでに五回も姿が確認され、三万人を超える人々が行方不明となっている。
 わたしが黙り込んでいると、刑事は話を続けた。
「まだ公表していないのですがね、ウラシマには消滅によって失踪したという共通点があると判明したのです。そして、ここからはご存じかも知れませんが、ウラシマは、親しかった人に必ず会いにきます」
 ここまで聞いて、警察署に呼ばれた理由を察した。
「父を捕まえるつもりですか」
「正確にはお父様ではない。現実的に考えて、十何年も姿が変わらないなんてありえません。アレは、他人の姿を真似た、凶悪なテロリストですよ」
 改めて協力を依頼される。警察も必死なのだろう、その内容は明らかにわたしの人権を無視したものだった。盗聴盗撮も含む二十四時間体制の監視をさせて欲しい。そう言ってきたのだ。断ることもできた。けれど了承した。まだ誰も知らないウラシマの真実を、ひいては父の所在を、知りたかったからだ。
 過去のウラシマの姿を収めたライブカメラの映像など、いまのところ判明している情報を提供され、その後、解放された。もちろん監視は始まっている。姿こそ見えないけれど、常に四人の捜査員が見張っているらしい。緊急時のためにワイヤレスイヤホンマイクも装着している。これならば夜道も安心だ。そんなことを思い、自宅までの道中、わたしは与えられた情報を頭の中で反芻した。
 ウラシマは、他国から来ていると考えられている。そして失踪以前の知人のもとに現れる。知人との接触を果すと、なにかしらの会話をし、懐から指輪ケースのような箱を取り出す。その箱が開かれると、ウラシマを中心に半径約一キロメートルの範囲が一瞬光に包まれ、そこにいた人々が消えてしまう。未知の兵器が用いられていることは確実だ。警察は、明言こそしていないけれど、被害者たちは死亡していると考えているだろう。
 わたしと、わたしの周りにいる捜査員たちの使命、それは、出現から箱の開封までの間にウラシマを確保することだ。

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