小説

『飯縄山は一九一七(ひくいな)』瀬木哲(『だいだらぼっち伝説』(長野県長野市))

 明くる日、飯縄が語りかけました。
「黒姫どん、戸隠どん。またダイダラボッチを呼んでくれないか」
「やられたから、やり返すつもりか」
 黒姫は驚いて聞きました。
「そうじゃない。仲直りもしたいし、頼みたいこともあるんだ」
「飯縄どんが言うなら、呼ぼう、黒姫どん」
 飯縄になにか考えがあると感じた戸隠は、そう言って黒姫をうながしました。
「だーいだーらぼっちー、でーらぼっちー」
「だーいだーらぼっちー、でーらぼっちー」
 三人が声を揃えて呼ぶとダイダラボッチが雲の間から顔を出しました。
「おら、お前たちと話すのはいやだよ」
「いや、きのうはすまなかった。もう、あんなことはしないから、仲直りしてくれ」
 飯縄がやさしく言うと、ダイダラボッチも雲から出てきました。
「おらも飯縄を引っ張って悪かった。夢中になると、つい、やりすぎてしまうだ」
 ダイダラボッチも謝り、飯縄、戸隠、黒姫とダイダラボッチは仲直りをしました。
「ダイダラボッチにおねげえがあるだ」
「なんだ。おらにできることならやるぞ」
「おらの背を低くして欲しい」
 飯縄の言葉に黒姫と戸隠は驚きました。あれほど背が高いのを自慢していたのに。
「黒姫どんや戸隠どんにも、おらの背中のほかに色んなものを見えるようにして欲しい」
「広く世の中を見たいんじゃなかったのか」
「おらには、善光寺平が見えればいい。それにはおらの背は高すぎる。黒姫どんや戸隠どんにも色んなものが見えるようにして、力を合わせて善光寺平を守りたい」
「そうか、わかった。じゃあ、お前の頭の方を削って、別の場所に移すぞ」
「ああ、お前が足跡を付けてへこんだところがあるだろ。そこに俺の頭を置いてくれ」

1 2 3 4 5 6 7