そんな夏が終わりに近づいたある日、ハナが初めて待ち合わせをしようと言い出した。
「次の週末、花火大会があるでしょう?」
どこからもらってきたのか、花火大会のチラシを渡された。
「ああ、そんな時期か。そこの海岸が会場のやつだよね」
今知ったような口調で答えながら、僕は冷たい汗をかいていた。本当は毎年その日が来るのを強く意識している。なぜならその花火大会こそ、僕が謝るべき事故が起きた日だからだ。
「一緒に行かない?」
ハナの誘いに僕は驚いた。
「怖くないの?」
「……なんで?」
「あ、いや、ほら、夜道は歩きにくそうだし」
「ああ、うん。夜は特に見えにくいね。でもね、私、十年くらい花火を見てないんだ。だからまた見てみたいなと思って。どんな花火かはわからなくても、ぼんやりとした光と音で楽しめそうな気がするんだよね」
そうして僕たちは一緒に花火を見ることになった。僕がハナの頼みを断れるわけがない。
花火大会の日、待ち合わせまで実家で時間を潰していると、玄関チャイムが鳴った。僕は慌てて立ち上がり、靴も履かずにたたきに降りてドアを開けた。
「よっ。手伝いに来たよ」
サチだった。
緊張と喜びに高鳴っていた鼓動が瞬時に静まり、自然に浮かんだ笑顔の収め時を見失った。僕は勝手にハナが訪ねてきたと勘違いしたのだった。そんなこと、あるわけないのに。
そして一瞬、サチに疎ましさを抱いてしまった自分がいた。
そんな僕の感情をよそに、サチは慣れた様子で上がり込み、窓を開け放した。
「まだ片付けたいなら声をかけてくれればよかったのに。どこか遊びに行こうと思って連絡したら実家にいるって言うからびっくりしちゃった」
言うが早いか、台所の古い調理器具などを選別し始めた。
「あ、うん、ごめん」
「いいよ。最近、全然会えてなかったしさ」
「えっと、それは」
「もしかして、毎週末、ここの片付けをしてたとか? 結婚したらここに住むつもりで」
「そんなんじゃないよ。結婚なんて考えてない。相手もいないし」
「……え?」
手を止めて呆気にとられるサチを見て、思わず僕も声を上げた。
「え?」
しばし言葉もないまま見つめ合い、相手の思考を理解する。やはりサチは交際しているつもりだったのだ。僕はそうではなかったことをサチも気付き、感情の読み取れない表情の歪みを見せた。
「どういうこと? ねえ、どうして?」
およそサチらしくない動揺をしている。いや、ただ僕が見たことがないだけでサチの一部ではあるのだろう。ただ、その様子を怖いと思った。僕のせいであるにもかかわらず、恐くて後ずさった。僕が一歩下がるとサチが一歩踏み出す。
もう逃げないでちゃんと言わなくちゃ。僕は意を決した。