マモルの家はどうなったのだろう。
“時に忘れ去られた村”は、“時を無視できる村”ではない。ツトムたちが通っていた小学校が廃校になったように、時計が壊れている村の中でも幾つかの変化は起きている。
マモルの家は、元庄屋として、今も近隣に権勢を誇っているのだろうか。
その答えを求めて、ツトムは、丘の上から、マモルの家のあった方へと視線を巡らせてみたのである。
そして、知った。
時はどれほど小さな村も見落とさないことを。見逃してはくれないことを。
小学校の校庭より広い庭を抱いていた元庄屋の大きな屋敷は、今は跡形もなくなっていた。
マモルの家があった場所には、広い庭を抱いてはいるが、どう見ても個人の住宅ではない平屋の建築物が建っていた。
最先端オフィスビルの対極にある、まるで幼稚園のように可愛らしい造りと色合いをした建物が。
あれは、町おこしのために市が建てた観光用の公共施設か何かだろうか。子供版福の神に守られて栄えていたマモルの家も、地方の過疎化という時代の波には逆らえず、没落してしまったのか――。
悲しさの混じった寂しさに、ツトムの胸は締めつけられた。
皆で遊んだマモルの家の庭が今はもうないというのなら、自分は本当に帰るべき故郷を失ってしまったことになる――。
ぼんやりとそんなことを考えながら、ツトムは、いつのまにかふらふらと丘を下り、懐かしい遊び場のあった方に向かって歩き出していた。
マモルはいい奴だった。人が好くて、庄屋の跡継ぎなのに威張り散らすこともなく、誰に対しても公平に鷹揚で、皆から好かれていた。あの頃のマモルは、子供の世界の庄屋――世話役だった。
だが、マモルは何事においても要領が悪く、都会の学校に入れるほど学校の成績もよろしくなかった。
だから、同級生たちは希望や野心を胸に抱いて都会に出ていったのに、マモルはこの村に残るしかなかったのだ。
幼稚園に似た造りの広い施設には、塀や門、看板の類はなかった。代わりに『座敷童子たちの家』という文字が銘刻された石碑があった。
広い庭には、陽光があふれている。
日溜まりの中にいるのは幼児ではなく、十数人の老人たち。
ここは老人ホームなのだろうか?
ツトムが石碑の前で首をかしげた時だった。
「ツトム! ツトムじゃないか!」