小説

『竹取り祭り』百瀬宏(『竹取物語』)

「ミツキ~、疲れた~。お腹も減ったし、ミツキと歩いてると男の視線がちょーうざい。落ち着ける所ないかな~?」
花火開始まで一時間を切って、空も暗い。夜店に集まる人も爆発的に増えて身動きが取れなくなってきた。
「そうだね。じゃ、食べ物買って特等席行きますか」
「特等席ってどこよ?」
食い意地の張った私は、屋台で手に入れた、焼きそば、イカ焼き、串焼き、おでん、綿あめ、りんご飴、チョコバナナ、お好み焼き、サイダーを買い込んで金魚の入ったビニール袋と一緒にミツキの後をついて行った。ミツキはみどりは食いしん坊だね、と笑って荷物を半分持ってくれた。そして歩いて着いた先は、河川敷にある縁もゆかりもない中学校だった。
「特別席ってここ?これなに中?やばくない?」
「大丈夫だよ。三年三組の教室が最上階で角になってるから花火がよく見えるんだ。人もいないしさ、ちょうど良いでしょ」
何でも知っているこの美少女は学校を囲む柵が一番低い場所に行くと、側にあった放置自転車を踏み台にして敷地に入った。それから夜の校舎へ潜り込む。確かにミツキの言う通り四階にある三年三組の教室は河川の花火がよく見えるベストポジションだった。彼女は何でこんなことまで知っているのだろう?時折、本当に宇宙人じゃ無いかと思うことがある。
「本当にめっちゃ良いじゃん。よおっし、お腹も減ったし、早速食べますか」
金魚のビニールを机の脇にあるフックに引っ掛けて二つの机を並べると、その上に持ってきた夜店のご飯を並べた。
「もうすぐ花火大会始まるよ。いよいよだね」
ミツキはチョコバナナを取り上げて小さな口でかじりついた。ミツキには子供っぽいところがあって、あまりご飯は食べないけど、甘いものには目がない。溶けそうなチョコバナナを嬉しそうに食べるその表情は出会った時の子供のままで、地上で私だけが知っているクールキューティーの本当の姿だ。
「そうだね、あー、お腹減ったー。私はまずは焼きそばだな、次はイカ焼き行くか、でデザートはリンゴ飴っと」
待望の焼きそばを口に含んだ時、丁度一発目の花火が真夏の空に上がった。向かいに座ったミツキの金髪が破裂した火薬の爆発を受けて神々しく輝く。
「いーなー、チョコバナナ。ちょっとちょうだい」
「やだよ。みどりはりんご飴あるから良いじゃん。それだけ食べたらデブって乗り物乗れなくなるよ」
「ははは、何だよ乗り物って。それにしてもミツキ、チョコバナナ好きだよね」
「うん。甘いの好き。後、アイスも好き。クレープも好き。チョコレートもいいな」
「あーいいねぇ、チョコ。私はラーメンもいいな。寿司も、焼肉!あ、串焼きもあったな、へへ。それにしても花火見ながら食べる高級フレンチってどんなんだろう?」
「冗談やめてよ。最期の食事をあんな人たちと一緒に取りたいの?私は姫様と静かに過ごしたいですよ」
「は?何言ってんの?姫とか最期とか」
宇宙からやって来たみたいな美少女は時々おかしなことを言う。
「姫様。知っているんですよ。もう、月から来て十年が経ちました。記憶が戻ったでしょう。丁度、一発目の花火がその時刻ですよ」

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