小説

『竹取り祭り』百瀬宏(『竹取物語』)

 ミツキとの初めての出会いは十年前の竹取り祭りの日だった。小学二年生の私が祭りの花火大会へ行こうとして夜に竹林の中を通ったら、迷子になってしまった。そこへ突然現れたミツキは鼻水を垂らしてワンワンと泣き叫けぶ私の手を引いて、家まで連れ帰ってくれた。学区が離れていたのでお互いの小学校は別々だったけど、これが理由で彼女は毎日私の家へ来て暗くなるまで一緒に遊んだ。もう、十年来の幼馴染ということになるけど、初めてミツキを見たときの事は忘れない。美しい金髪を持つ彼女は竹藪の中で月の明かりに照らされて輝いていた。

竹取祭りの要求 

 高校の夏休みに暇を持て余した私とミツキは竹取り祭りの花火大会に出かけた。大会は夜からだけど、早めの屋台目当てに真夏の午後一時にウチらはバスで河川敷に行くことにした。河川敷行きのバスは少ないので、炎天下で待たないように計算して国道沿いのバス停に行く。

 ミツキは芸能事務所にスカウトされるほどの超絶美少女で、その魅力はどんな時でも遺憾無く発揮される。バス到着時刻の五分前に停車場へ着くと、国道を通りかかった高級な車が止まった。すると、運転席から身なりのいいサラリーマンが顔を出して声をかけて来た。ナンパって奴だ。ミツキは私に目配せすると、これから友人と河川側にあるショッピングモールに行くから送って欲しいと言った。もちろんおっさんは淡い期待を胸に二つ返事でオッケーするので、私とミツキは車に乗り込んだ。それは高級車でクーラーもバッチリ効いていて快適にお店まで行く事ができた。ショッピングモールではおっさんがしつこくウチらの後を着いて来たので、トイレに行く振りをしてヤツを巻いて河川敷へとまんまと逃げ出した。

 祭りの場所へ着くと、日中ではあったけど場所取りのために既に飲んでいる人たちもいて、出店も出ている。ブラブラと出店を冷やかしていると、ミツキが射的の店で止まった。彼女の視線の先にあるのは、特賞のお姫様セットだった。見るからに子供用なのだけど、カチューシャやネックレスなどのプラスチック製の宝飾が超豪華なBOXの中でキラキラ輝いている。確かにちゃっちくはあるのだけれど、こんな子供っぽいのをミツキが身につけたらギャップ萌えは間違いない。私はこのセット、特にダイヤやルビーのイミテーションがゴテゴテ着いたカチューシャはミツキによく似合うだろうと思った。彼女は無言で五回分の料金を払って、台の一番離れたところにある的を目掛けてトライしたがダメだった。諦めて帰ろうとすると、ずっとミツキに見とれていた射的のお兄いさんは「誰にも言わないでね」と言って長らく日に焼けていたお姫様セットの箱をミツキにあげようとしたが、ミツキはそれを受け取らなかった。「勿体無いじゃん」と彼女に言ったら、「どうせ持って帰れないしね」と答えた。確かにあの大きさは家に持ち帰るのに邪魔になるかもしれないけど、ミツキがあれを身に付けるのを見たいと思った。

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