小説

『竹取り祭り』百瀬宏(『竹取物語』)

 私は金魚すくいが大好きで一回で9匹取った事がある。早速、開店準備を終えたお店を見つけると、ポイとお椀を携えて金魚の泳ぐプールの一角に陣取った。赤い金魚が泳ぐのを見るだけでも楽しい。ゲームをするにあたって金魚が活きのいいのは望むところだが、
このお店のキャラクターなのか、どう見ても鯉の小さいのや結構な数の亀が泳ぎまくる。その中の一匹などは手のひらサイズはあった。どうしたら暴れる亀をこの心もとない紙製のポイで掬えるというのか。元より亀はターゲットにないのだが、そいつらが邪魔して上手く金魚に狙いが定められない。それでも時間をかけながら三匹ほど捕獲すると、側で見ていたミツキの姿が消えた。辺りを見回してみると性懲りも無くまた男に捕まって口説かれていた。相手は地元ですくすく育ったヤンキーで、どっからとも無く湧いて着た輩が、ミツキの魅力に一目惚れして外聞もなくアタックしてきたらしい。なれたミツキは甘えた声で、金魚のプールに泳いでいる手の平大の亀をどうしても欲しいと駄々をこねた。こんなの掬えるはずもなのだが一丁、良いところを見せたいヤンキーは無謀な挑戦を始める。プールの前に腰を下ろしたヤンキーを見たミツキは私に目配せして、その場をズラかった。金魚すくいを途中でやめた私は三匹の和金をビニール袋に収めてゲームは終わった。

 ミツキと歩けば大抵の男は振り向く。もう長年一緒にいるので私は慣れっこだが、街に行けば声をかけられない事はない。祭りの日みたいに開放的な気分になっている時は遠慮がなくなるというもので、良い加減にしてくれとさえ思う。この後も、どこかの金持ちの息子が言い寄ってきて、河川敷にある高級フレンチレストランで龍火の舞を見ないかと誘ってきた。龍火の舞とは花火大会の目玉で、赤い大量の花火を河の水面ギリギリで爆発させる。すると、八方に弾けた火の玉が河面に反射して幻想的な様相を作り出すというものだ。この河川には有名な高級レストランがあって、一人三万円も出すと一番見晴らしの良い席でフレンチを食べながら花火を鑑賞できた。この辺りでは女性を口説く口実として話はよく聞く。食いしん坊の私はその話に乗りかかってしまったのだが、ミツキは常変わらないクールキューティーな面持ちで嘘の電話番号交換をして後で会う約束をした。結局、この金持ちをもってしてもミツキの関心は買えなかった。

特等席で見る花火

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