小説

『城のある町の怪談』森本航(『豆腐売りの人柱伝説』(香川県丸亀市))

 彼女は誰とでも仲がいい。でも、彼女と対等な立場で関われている人はいるのだろうか。彼女と同じ世界に住んでいる人は――。
 などと考えて、自分が自分で嫌になる。彼女が本当は孤独なのではないか、などと考え、それを心配するなんて、思い上がりもいいところだ。
 そんなことを考えながら、未希の席の方に目を向ける。机の横に置かれた鞄に、猫のキーホルダーが付いている。そういえば、猫が好きだという話を聞いた気がする。
 ふと、今日の登校中に見かけた迷子猫の張り紙を思い出した。いつも急いで通り過ぎている場所だったので今日まで気付かなかったが、三週間ほど前からいないらしい。首輪をつけた白い猫の写真が載せられている。首輪があるなら、すぐ見つかるのではないか、と思った。同時に、この猫は何を思っているのだろうか、とも思う。猫にしてみれば、住処を変えただけかもしれない。飼う、飼われるというのは、結局人間側の都合で、表面に見えるものをいいように解釈した結果だ。
 人と人でも同じだ。結局、目に見えるものを自分の都合で解釈しているだけ。自分自身についてすらも。幽霊も同じだ。
 ーー何の話だっけ?
 思考が、中心から目を背けようとしている。
 結局私は、早川未希に嫉妬している。
 正確に言えば、ただ羨望することしかできない自分が情けなくて嫌だ。
 嫉妬するほどの意志や努力が今の自分にあるか?
 でも、住む世界が違うと言い切る潔さもない。 
 いつも笑顔の彼女が。声を出して笑っている姿を見たことがあっただろうか。
 いや、それも、勝手な解釈だ。
 結局私は、早川未希と対等になりたいのだ、と思う。
 だから、
 彼女が孤独であればいいと、
 彼女が誰かを求めていればいいと、 
 都合よく思っているだけだ。
 同じ目線で、物事を見て、彼女と話したい。
 そう思うことすら、彼女を遠ざけているようで、嫌になる。

1 2 3 4 5