小説

『とある学生の憂鬱』睦月紗江(『鶴の恩返し』)

 
その日までやはり気配が消えることはなく、気持ち悪い思いをしながら過ごした。
当日、周りを気にしながら友人は現れた。
やけに周りを気にしてどうした、というと今日話すことと関係があると言う。
友人にむしろなぜ落ち着いている、と言われた。
帰り道と家以外ではあまり気配を感じないからだ、というと友人は納得したようにあるものを見せてきた。
それはクラスメートのSNSアカウントである。
その生徒の投稿は一見するとテストの話や帰り道の話など普通に見える。
これがどうしたのだろうか。
友人はある投稿を指さした。
『今日はテスト勉強が苦手なあの人のために対策ノートを作った。
この前は惨敗したらしいしこれで前の分も取り返せるといいけど。』
という言葉と共に対策ノートの写真が載っていた。
そう、私が受け取ったあの謎の対策ノートだ。
背筋がぞわりとした。
投稿を辿っていくとまたあった。
『この前汚れた靴を履いているのを見かけたから、新しい靴をプレゼントしてあげた。
これで雨が降った時に靴下まで濡れることはないはず。』
そして私が今使っている靴の写真。
今の私の靴は前使っていた靴がなくなり代わりに新しいものが置かれており、前のが見つからずどうしようもないので渋々履いているものだ。
これはもう確定である。
どう考えてもこの生徒が犯人だ。
しかしなぜこのようなことをするのかがさっぱりわからない。
この生徒に対する評判といえば大人しい、真面目などいたって普通のものばかりだ。
私自身接点としては授業中たまたま隣の席になった時、その生徒が教科書を忘れていたので貸してあげたくらいだ。

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