小説

『とある学生の憂鬱』睦月紗江(『鶴の恩返し』)

私は正直授業をちゃんと聞かないので教科書をあまり使わないからいいやと思って貸した。
ただそれだけ。
何か原因が書かれていないかと思い投稿を遡るとちょうど教科書を貸した時のことが書いてあった。
『教科書を忘れてしまったら隣の子が貸してくれた。私なんかに話しかけてくれた上に貸してくれるとはなんていい人なんだろう。恩返しをしなければ。』
『とりあえず今日は何も返せない。なんということだ。しかしあからさまに何かをしたら向こうも気を使うかもしれない。気づかれないようにそっとしなければ。』
…なんというかどうやら恩返しのつもりだったらしい。
結構怖かったので恩返しというか怨返しのように感じていたがどうやら違っていたようだ。
よもや善意でやられていたとは。
しかしこれ以上続けられるとこちらとしては困る以外のなにものでもないのでやめて欲しいとメッセージを送った。
その日以来今までのような気配がすることもなく平穏な日常を取り戻したのだが、一つ変わったことがある。
例の隣の席の生徒が転校をしたのだ。
どうもあの生徒は自分が恩を感じた相手を見つけるたびにいわゆる「恩返し」をやっていたらしく、他の生徒からも学校に被害を訴えられていたようだ。
現在その生徒はどこにいるかもわからない。
立つ鳥跡を濁さずとはいうが、まるで最初から居なかったかのようになっていた。
恩返しとがいいものとは聞くが、こんな恩返しは二度と経験したくないと思った。

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