小説

『みもろの恋』サクラギコウ(『万葉集 三輪大神神社の歌(奈良県三輪山)』)

 神さまだって怒ることがあるのだろうか。
 心を改めたら許してくれるのだろうか。


 霞がかかった白金色の木漏れ日が樹々の緑をより深い色に照らしている。ここには山そのものが神だとされている神社がある。
 奈良の三輪山は標高467m、周囲は16㎞の小高い山だが、山がご神体であるため、長い間足を踏み入れることを許されない禁則地とされてきた。
 今は許可をもらえば登拝することができるが、登拝には多くの禁止事項、遵守事項が課せられている。みもろ山とも呼ばれる日本最古の神社だ。


 そんなお山に10歳の頃初めて登った。その年に翔が祖父母と一緒に登ると知り、同じ日に登りたいと父に頼んだ。
 毎年、夏が終わり観光客の数が一段落した頃、父は一人で登っていた。三輪山は大人の足で2~3時間で戻って来られる小高い山だが、坂がきついうえに道が滑りやすい。そのため子どもにはまだ無理だと連れて行ってもらえなかったのだ。
 どうしても登りたいと言って諦めない私に「途中で音を上げるなよ」とくぎを刺されての登拝だった。


 登り始めは緩やかだった道は丸太橋を過ぎた頃から、足元の岩肌が滑りやすくなる。後ろから声を掛ける父は私が音を上げるのではないかとひやひやしている様子だ。私は父に本心を見透かされないよう、平気を装い一歩一歩足を進めた。
 少し前を登っているはずの翔は大丈夫だろうか。
 急坂や木の根が飛び出た歩きにくい道をなんとか歩き切る。山頂へとたどり着くと今までの苦しさは何処に行ってしまったのかと思うほどの感動が湧き上がった。

1 2 3 4