「俺なんか転校したり、戻ってきたら一年下の学年に入れられたりでさ。三年間ずっと一緒みたいな友達、大学に入ってからだもん。地元っていうほどの地元もないし。昔からの親友って憧れちゃうな」
兎和は送られてきたリクエストをもう一度見つめた。名前を押しページを開くと、髪型とメイクで雰囲気は随分変わっていたが、それはまぎれもなく美琴だった。兎和はその画面を勇一に渡す。
「わたしはみんなを裏切ったんだ。みんなを騙したの。親友なんかじゃないんだよ」
昼休憩も終わりに近づき、兎和がトイレに駆け込んだ直後だった。集団が入ってくる足音が聞こえ、洗面台の水が流れる音がした。
「旧音楽室が空いてんじゃん」
「でももうあそこ、使ってる人たちいるしさ」
八神さんの声だ。一年のとき同じクラスだったから兎和はよく覚えていた。市のピアノのコンクールで優勝したこともある八神さんを美琴と兎和は一度、メンバーに誘ったことがある。他の声はきっと、八神さんの取り巻きだろう。
「勝手に使ってるだけでしょ? オケバンドだかなんだか知らないけど、部活でもないんだし」
「先生から許可もらってるぽいんよね。だからウチらが乗っ取るわけにはいかないわけ」
「動画撮ってるだけじゃん」
「下手な演奏のほうが迷惑行為でしょ」
「でも今度注意されたらマジヤバいからさ」
親の手伝いをしないといけないから、と八神さんはメンバーになるのを断った。でもそれが実際はバイトだった。校則違反で八神さんは先生に見つかり、指導だけで済んだものの、以降先生たちから目をつけられるようになった。この前も勝手に化学室を使って問題になったことを、もう同じクラスではないが兎和も噂で聞いていた。
「じゃあ、使えないってこと? あそこしか残ってなくない?」
誰かが壁をドンッと叩き、他の人の笑う声が響く。