「おまえには触らない」
触らないって……。そんな、なに言ってるんだか。
「だって! 触らないでどうやってするの! あんた、どんなプレイがしたいんだよ!」
「描くだけだ。絵を」
「え? ……かく? ……絵?」
「注文が入ったんだ」
注文、絵、描く――こいつは絵描きなのか。
「……しないの?」
「時間の無駄だ。二十万は払ってやる。だからいまから俺の言う通りにしろ。ベッドに戻れ」
男の目つきが変わる。鎖を手に、俺に迫ってきた。
冷たい鎖の感触に、声をあげそうになる。首から巻きはじめ、胸から腰へと鎖を這わせていく。
「動くな。しゃべるな」と言われ、しかたなく体勢を維持することに神経を集中させた。
「休憩」
男の一言で金縛りが解け、ベッドに崩れ落ちた。体はガチガチだ。腕は、おそらく死んでいる。
気配がした。そちらに首を捻ると、男がペットボトルのフタを開け、俺の口元に近づけてくる。与えられるまま俺はそれを口に含んだ。口の中はからからだった。
「腕、動かないか? まだ十分かそこらだぞ」
「うそだ……」
時間の感覚が狂っているのか。三、四十分は過ぎているはずだ。
「五分後に再会。だるいなら、腕は下ろしててもいい」
ペットボトルを床に置いて、男はカーテンと窓をすこし開けた。煙草に火をつけ、煙を外に吐き出す。
全裸の俺と俺を見つめつづける男。
くり返すたびに、頭にかかる靄が濃くなっていった。現実感が喪失していく。この状況に酔ったらしい。