男はもう歩きだしている。
ま、いいか。二十四時間ずっとやりっぱなんてあり得ないし。
俺は男の後についていった。
そう長くは歩かなかった。意外だったのは男がホテルではなく、マンションに入ったことだ。六階の一室のカギを開ける。
灯りをつけてカーテンを引く。
「住んでるの?」
そっけないワンルームだ。片隅にデスクと椅子。部屋の真ん中にシングルベッドが置かれている。
「仕事部屋。じゃあ、脱いで」
さっそくかよ。二十四時間もあるのに、がっついてる。
シャワーくらい浴びたかったと思いながら、煙草と油の臭いがするシャツを脱ぎ捨てる。男がなにも言わないので、下着まで脱いだ。
男は壁に寄りかかって俺を見ていた。
「ベッドに上がって。膝立ちになれ。……足、もっと、開いて。そう。腕を上げて、高く。視線は天井」
なに、これ。
「そのまま」
男が近づいてくる。無遠慮な視線で体を舐めまわす。細部まで、吟味するように。
「いいというまで、動くな」
男はベッドを一周しながら、とことん俺を見た。
「足りないな」という呟きのあと、気配が離れた。物音。どうやらバッグをあさっているようだ。
ジャラ。
あきらかな金属音。いやな予感がした。横目で男を見る。その手には鎖が握られていた。
「ちょ、ちょい待ち!」ベッドから飛び降り「そういうのダメだって!」俺は叫んだ。