小説

『ニートと私と灯油のタンク』篠原ふりこ(『女殺油地獄』)

「どうして、俺は何やってもうまくいかないんだろう……」
 たくさん理由は思いつくが、さすがにかわいそうなので言わないでおいてあげた。
「……そんなに、生きていたくないのなら、私が殺してあげようか?」
「え?」
 泣きはらした目で、彼が私を見上げる。
「いいよ。刺激に飢えてた所だし、元カノのよしみで私が引導を渡してあげる」
「え? ゆ、弓ちゃん?」
 さっきまで死ぬだの何だの豪語していた割に、彼の表情に恐怖が宿る。
「別れよ、優太。今度こそ、本当に」
 彼は混乱しきって、うずくまったまま動けないようだ。
 私は彼が怖がらないように、にっこり優しい笑みを浮かべてあげた。



 無感情な女性の声が、ニュースを淡々と読み上げている。内容は、無職の男が身代金のために女を誘拐したもののうまくいかず、追い詰められて自殺した、というものだ。海に飛び込んだ男の遺体はまだ見つかっていないらしい。
 それを私は病院の一室でぼんやり眺めていた。誘拐された女性というのは私のことなのだが、全く実感がわかず他人事みたいだ。
 それもそのはず、だってこれは私と優太がヤクザを欺くために行った狂言誘拐なのだから。
 誘拐された私が「犯人は自殺した」と証言すれば、他に目撃者もいないため優太は死んだことになる……はずだ。死体がないことをごまかすために海に飛び込んだことにもした。

1 2 3 4 5 6 7