小説

『ニートと私と灯油のタンク』篠原ふりこ(『女殺油地獄』)

 
「ひぐっ、さ、最初は少しだけ、だったんだよぉ。き、気づいたら大金になってて……。借りた相手が悪かったんだ。ヤクザだって、俺、知らなくて。借金返せなかったら、俺、内臓全部売られて死んじゃう…」
 泣きながら訴える彼に、同情が全く湧かないわけではない。優太とは5年くらい付き合っていたのだが、悪い友達が多く、すぐトラブルに巻き込まれては私にすがってきてばかりだった。学習能力もなければ男らしさもない、どうしようもない男だと呆れつつも、そんな彼のことが、私は確かに好きだった。
「……もう、別れて一年は経つよ。優太がどうなろうと、私には関係ない」
 好き「だった」。過去形だ。いくらダメ男が好きな私でも、優太は手に負えなかった。いつか彼は取り返しがつかない事件を起こす。そう思った私は、優太を冷たく振ったのだ。
「俺、とうとう親にも勘当されちゃって。もう頼れるの、弓ちゃんくらいしかいないんだよ。助けてよ……」
「あんたのことを甘やかしてたお金持ちの親も、ついに愛想が尽きたんだ。でも自業自得だよ。指でも詰めたら、もしかしたらヤクザも許してくれるかもしれないね」
 彼にそんな度胸はないだろうと思いつつも、助言してみた。
 案の定、優太は「どうしてそんな酷いことを言うんだよぉ」とますます泣きじゃくる始末。
 はぁ、と大きなため息をつく。彼が開け放した玄関から冷たい夜風が絶え間なく流れ込んできていて、私はすっかり湯冷めしてしまった。
「もう、帰ってくれない? 私は明日も仕事だし、あんたのことを助けてあげることもできない。優太も、こんなところで時間を無駄にするよりも、仕事を探してお金を稼ぎなよ」
「今更俺が仕事についたって、1000万なんて大金、稼げるわけないだろ!」
 その大金を、あんたは私から脅し取ろうとしてたんだけど。
 悲劇のヒロインみたいな顔をして演説を始める優太を、私は白けて見つめていた。
「うぅ、俺のことを誰も助けてくれない…も、もう、俺は死ぬしかないんだぁ」
 大げさに泣きながら、彼はちらりと私のことを見た。ここまですれば、私がどうにか助けてくれるんじゃないだろうか、と甘い考えを持っているのがバレバレだ。

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